【最低賃金】10月の賃上げ、どうせやるなら9月に動いてください

最低賃金が10月から上がります。埼玉県は1,141円から1,196円へ、東京都は1,226円から1,280円へ。全国どこでも50円を超える引き上げです。

清掃業は人件費が売上の大半を占める仕事ですから、これは避けようのないコスト増です。「今年もまた上がるのか」と思われている方が多いと思います。

ただ、その賃上げのやり方を少し変えるだけで、清掃機材の代金が4分の3安くなる制度があるとしたらどうでしょうか。

150万円の床洗浄機が、37.5万円になります

厚生労働省の業務改善助成金という制度です。

やることは2つだけ。従業員の時給を上げることと、生産性の上がる設備を導入すること。この2つをセットで行うと、設備費用の4分の3が助成されます。

150万円(税抜)の床洗浄機なら、112.5万円が戻ってきます。自己負担は37.5万円です。(90円コースで2〜3名を引き上げた場合。金額はコースと人数で変わります。後述します)

ただし、この37.5万円は税抜での計算です。助成の対象になるのは税抜額なので、消費税分は助成されません。税込165万円でお買い上げの場合、実際に手元から出ていくのは52.5万円になります。記事の後半で、税込での比較表をお見せします。

床洗浄機は厚生労働省の助成事例にも載っている対象設備です。事例では「洗浄と汚水の回収を同時に行うため水切り作業が不要になり、作業時間が短縮された」という形で認められています。ポリッシャーやバキュームで何工程もかけていた作業が1パスで終わる、まさにあの効果です。

なぜ「9月に」なのか

ここが今回いちばんお伝えしたい点です。

この制度には、賃上げは交付申請を出した後に実施するというルールがあります。そして最低賃金の発効日の前日までに済ませる必要があります。多くの地域は10月1日発効なので、期限は9月30日です。

つまり、こういうことになります。

10月1日に最低賃金が発効 → 申請の締切は9月30日 9月に賃上げする 申請を出してから実施 設備費の3/4が助成される 150万円なら112.5万円 10月に賃上げする 最低賃金の対応として 助成は受けられない 同じ賃上げでも対象外
やることは同じで、時期だけが違います。

どうせ10月から上げなければならない時給です。それを1か月前倒しするだけで、機材代の4分の3が助成の対象になる。追加で必要なのは、9月分の1か月だけ多く払う人件費です。

引き上げ額は、最低賃金対応でどのみち必要になる額から始められます。コースは50円・70円・90円の3つ。埼玉県で現在1,141円の方なら、10月の対応でどのみち56円上げることになりますから、この56円だけで50円コースの要件は満たします。

ただし、受け取れる額はコースと引き上げ人数で決まる上限に制限されます。ここを誤解すると計画が狂うので、150万円(税抜)の機材を例に整理します。

引き上げコース 2〜3名 4〜5名 8名以上
50円(=56円上げた場合) 70万円 70万円 110万円
70円 100万円 112.5万円 112.5万円
90円 112.5万円 112.5万円 112.5万円
事業場規模30人未満の場合。厚生労働省が定める上限額と「機材費×4分の3」を比較し、低いほうが助成額になります。

50円コースでは、8名以上を引き上げても110万円が上限です。112.5万円には届きません。満額を受け取るには、90円コースで2名以上、または70円コースで4名以上の引き上げが必要になります。

つまり選択肢は2つです。最低賃金対応と同じ56円だけ上げて70万円を受け取るか、あと34円上乗せして112.5万円にするか。どちらが有利かは人数と労働時間で変わります。34円の上乗せは以後ずっと続く人件費ですから、そこは慎重にご判断ください。次にご紹介する試算ページで、両方の金額を見比べていただけます。

申請できるのは、9月の1か月だけです

去年までは4月から受付が始まっていました。今年度は9月1日開始です。4月から8月は申請できません。

締切は、お住まいの都道府県の最低賃金が発効する日の前日まで。多くの地域が9月30日です。受付期間は実質1か月しかありません。予算がなくなり次第終了する制度でもあります。

ひとつ注意点があります。締切は都道府県ごとに違います。現在答申が出ている31都道府県のうち、9月30日締切は15。ほかは10月上旬から中旬にかけて分散し、京都府だけは11月15日です。他社の案内が「締切は9月30日」と一律に書いていることがありますが、地域によっては余裕があります。逆に、確認せずに諦めるのはもったいない話です。

「事業場」は、現場のことではありません

ビルメンテナンス業の方から必ずいただく質問がこれです。順を追って説明します。

この制度は「事業場」ごとに申請します。そして助成の基準になるのは、その事業場でいちばん低い時給です。

では「事業場」とは何か。従業員を雇い、給料を計算している拠点のことだとお考えください。本社に限りません。営業所や支店も、そこで採用と給与計算を行っているなら、それぞれが独立した事業場になります。

一方、日々作業に行っているお客様のビルは、御社の事業場ではありません。そこは発注元の建物であって、御社が人事や経理の機能を持っている場所ではないからです。

具体例で見てみます。本社で採用と給与計算を行い、そこからA・B・Cの3つの現場に合計12名を派遣している会社を考えます。

本社・営業所・支店 = 事業場 採用・給与計算を行う拠点 従業員 12名 現場(事業場ではない) A現場 1,250円 B現場 1,180円 C現場 1,141円 いちばん低い 基準は12名のうち最も低い 1,141円。現場ごとには分けられない
A・B・Cは事業場ではなく、判定は本社でまとめて行います。

ここから2つのことが分かります。

ひとつめ。「C現場の3人だけ上げて申請する」という組み立てはできません。C現場の人を引き上げてB現場の1,180円を追い抜いてしまうなら、Bの方も一緒に引き上げる必要があります。

ふたつめ。逆に言えば、どの現場に機材を入れるかは関係ありません。本社という事業場として申請し、機材はどの現場で使っても構いません。

人件費のインパクトは現場単位ではなく、事業場全体で効いてきます。ここを見誤ったまま計画を立てると、社会保険労務士の先生に相談した段階で崩れます。

営業所が複数あるなら、それぞれ申請できます

逆に、拠点が複数ある会社には有利な面があります。本社と、独立して採用・給与計算を行っている営業所がそれぞれ事業場にあたるなら、事業場ごとに別々に申請できます。

ただし今年度から制限が加わりました。同一の事業主が複数の事業場で申請する場合、事業主単位での年間申請額の合計に600万円の上限が設けられています。令和8年度からの新しい制限です。

「営業所ごとに申請できる」という説明を見かけることがありますが、各営業所で600万円ずつ受け取れるわけではありません。2つの事業場で申請しても、合計600万円が上限です。ここは誤解しやすいので、複数拠点をお持ちの場合はご注意ください。

手元のお金は、どれだけ軽くなるか

設備投資でいちばんの障害は、決裁でも稟議でもなく、出ていく現金の額です。

150万円の機材を、助成金なしで買う場合と使う場合を並べます。ここからは税込で計算します。実際にお支払いいただくのは税込額だからです。助成額は112.5万円(90円コース・2〜3名)が出た場合としています。

助成金なし 業務改善助成金あり
機材代(税込) 165万円 165万円
助成金 112.5万円
最終的な負担 165万円 52.5万円

112万円の差です。同じ予算で、今まで手が出なかったクラスの機材が視野に入ります。52.5万円のうち15万円は消費税です。助成対象が税抜額である以上、この分は必ず自己負担になります。

ただし、正直にお伝えしておくべき点があります。助成金は後払いです。事業が完了して実績を報告し、審査を経てから振り込まれます。ですから購入時にはいったん全額をお支払いいただく必要があります。手元資金か、つなぎの借入が要ります。

「4分の3が安くなる」というより、「4分の3が後から戻ってくる」というのが正確なところです。

自社にいくら出るか、試算できます

制度の説明を読んでも、結局いくらになるのかは分かりにくいものです。数字が出るページを用意しました。

業務改善助成金 かんたん試算はこちら

入れるのは、都道府県、賃金台帳のいちばん低い時給、引き上げコース、引き上げる人数、事業場の規模、機材の価格。この6つだけです。

  • 対象になるかを最初に判定します。要件を満たさない場合、金額は出さずに理由をお伝えします
  • 助成率が4分の3か5分の4かを、入力された時給から自動で判定します
  • コースと人数で決まる上限額を反映した、実際の見込額を出します
  • 消費税込みでの実質負担額を表示します。助成の対象は税抜額なので、税込で見ないと数十万円ずれます
  • 選んだ都道府県の締切を表示します

大阪府の方には、府独自の上乗せ補助(対象経費の4分の1・上限200万円)の判定も出ます。この上乗せには「改定後の最低賃金より2%を上回る金額まで引き上げる」という条件があり、70円コースでは届きません。そこも含めて計算します。

制度の要点も同じページにまとめました。今年度の変更点、対象になる4つの条件、上限額の一覧表、申請の順番。ひととおり目を通していただければ、社会保険労務士の先生への相談も早く進みます。

最後に、いちばん多い失敗

交付決定を待たずに機材を発注してしまうこと。これに尽きます。

正しい順番は、交付申請 → 賃上げ → 交付決定の通知 → 機材の発注です。この順番を守らないと、ほかの要件をすべて満たしていても助成額は0円になります。

私どもがご相談をいただいたとき、最初にお伝えするのもこの点です。お見積りの提示までは進めても、正式なご発注は交付決定の後にしていただく必要があります。

なお、申請書類の作成や提出の代行は社会保険労務士の業務にあたるため、私どもではお受けできません。制度そのもののご相談は業務改善助成金コールセンター(0120-366-440)または各都道府県労働局へ、申請の実務は顧問の社会保険労務士の先生へお願いします。

私どもでご用意できるのは、申請に使うお見積り(相見積もり用の比較資料を含みます)、導入前後の作業時間を比較した試算資料、機材の仕様書一式です。申請書には「その設備で作業時間がどれだけ短縮されるか」を、清掃の知識がない審査担当者にも伝わる形で書く必要があります。そこは私どもがお手伝いできる部分です。

10月の賃上げは、どのみち避けられません。同じ賃上げを、機材の更新につなげられるのは今年の9月だけです。まずは試算ページで、御社の数字をご確認ください。

本記事は令和8年8月時点で公表されている厚生労働省および各都道府県労働局の資料にもとづく参考情報です。最低賃金額および発効日は答申段階であり、正式決定までに変更される場合があります。助成の可否・金額は労働局の審査により決定されるもので、受給を保証するものではありません。

コメント

この記事へのトラックバックはありません。

関連記事